ビヨンセ「フォーメーション・ワールド・ツアー」ではSymphony I/O Mk IIがボーカル・プロセッシングを一手に担う

ライブ・サウンド市場は驚くべきの勢いで成長を続けている。先日公開されたPwCのレポートによれば、2015年における米国のコンサート・ビジネスの推定利益は93億ドルにのぼり、2020年までに116.9億ドルまで達する見込みだ。ツアーを行うアーティストは、常にライブにおけるプロダクションの様々な側面の向上を目指し、オーディエンスに最良の体験を与えようとしている。ビヨンセの「フォーメーション・ワールド・ツアー」において、プロダクション・チームは彼女の楽曲のあらゆる側面を、バッキング・トラックに極力頼らず、リアルタイムに再現しなくてはならない難題を抱えている。そしてそこには、何曲かで施されたリード・ボーカルの特別なエフェクト処理の再現というチャレンジも含まれている。通常他のアーティストであれば、アルバムにしかないこうしたエフェクト処理はFOHエンジニアにとってライブで再現するにはあまりにも複雑なことも多く、メジャーなアーティストでも、これらはバッキング/プレイバック・トラックに頼るか、完全に省略してしまうことも珍しくない。しかしビヨンセのプロダクション・チームにとって、この選択肢はまったくなかったと言っていい。彼らはカール・ゴレンベスキをボーカルエフェクト担当のエンジニアとして迎えた。

「私の役割における最大の目標は、過去何作かの彼女のアルバムでスチュアート・ホワイトが手がけたボーカルエフェクト処理を、もっとも信頼性の高い形で再現することでした」とゴレンベスキは語る。

「スチュアートの音質感調整は芸術の領域であり、ボーカルエフェクトはサウンドの非常に重要な部分を占めています。これらをエコシステムそのものがスタジオ環境とは非常に異なる、ライブサウンドに再現しなくてはならない。さらに我々はビヨンセのFOHを長年努めてきたスティーブン・カーテインが組み上げたトラックにこうしたエフェクトを少しずつ加える必要がありました。最終的に我々はTVやゲスト出演ほか、およそあらゆる環境に対応可能なシステムを作り上げることができました。これにより我々は何度でも、求められる以上に優れた結果を出すことができるのです」

Apogeeは幸運にもツアーなかばのゴレンベスキ氏とこのユニークな機材セットアップとその使用感などについて伺う機会に恵まれた。

Symphony I/O Mk IIは使い始めてすぐに今までのレイテンシーを半減し、64バッファサイズで動作させることができた。試した限り、他のインターフェースではこのセットアップで近いパフォーマンスを出せたものはなかったよ!

フォーメーション・ワールド・ツアーで、ビヨンセのボーカルに使われている現在のセットアップはどのようなものでしょうか?

今は2台の12コアMac Proと2台のSymphony I/O Mk II、それからApple’s MainStage を使用している。プラグインのリストは長すぎて紹介しきれないな。あとはBehringer Xcontrol、iConnect midi2+、後者はリダンダントのフェーダーには必須なんだ。あとはAES出力のスイッチャーだね。ここでは二つの全く同じシステムが同時に稼働していて、必要なときにすぐバックアップの方に切り替えることができるようになっている。.

彼女のボーカルは、まずマイク、マイクプリそしてスプリットした信号がそれぞれのSymphony I/O Mk IIに入力され、MainStageで処理されるんだ。そしてそれを再度2つに、一つはウェット信号でFOHへ、もう一方はウェット、ドライに分けてジェイムス・ベリーとジミー・コルビンの受け持つモニターコンソールへ送られる。

他のアーティストのツアーと比べて違うところや、ビヨンセのツアー経験に生かされた部分などはありますか?

そうだね、まず他のツアーとは全く異なる経験だと断言できる。ここに至るまでの道程を示すようなリアルな地図があるわけではないし。まあ今となっては本一冊かけるくらいの経験ではあるけど。機材に関して言えば、我々の要求は非常に高いものだといえる。色々試した結果、B(ビヨンセ)の魅力を伝えるにはサンプルレート48kHz、バッファ64が最適だという結論になった。彼女がステージで気分良くパフォーマンスできることが重要だからね。リアルタイムの演奏を損ねないレイテンシーと、ホストアプリケーションやプラグインの要求を満たすコンピューターの安定性、このデリケートなバランスを取ることが我々の役割だ。

このシステムを技術的に構築していく過程で、時としてフラストレーションや疑問を持つことも少なくなかった。様々な曲を追加していくたびに、プロセッシングに対する要求は大きくなり、そうするととうぜんレイテンシーが問題になってくる。ある段階で、違う手法を探る必要が出てくるだ。これは独立したシステムだから、個々人のエゴは脇に置いてグループ全員で解決しなくてはならない。グループで取り組むことで、問題が起こっても必ず明晰な解決方法がみつかるものなんだよ。グループ内の結束や人間関係も広がるし、こうした点も素晴らしい経験だね。

Photo Credit: Cody Orrell

パフォーマンス全体で何個の、また何種類のプラグインが使われていますか?

現在は、およそ15曲にプログラムされたエフェクトが使われている。プラグインの組み合わせもユニークなもので、Soundtoys、Waves、Vallhalla、Antares、Slate、Kush、Mcdsp、他にもあるかな。いくつかのエフェクト、例えばリバーブなどはスタジアムで使うにあたって再考しなくてはならなかったね。あと、“Dont Hurt Yourself”や“Ring the Alarm”などで使われているディストーションの質感調整も。これはフィードバックのコントロールでダンスをやるようなものでね。この質感とレベル調整がアルバムにあった品位のある歪みを保つのに必要なんだ。

Symphony I/O Mk IIを使ってみての印象や信頼性などはいかがでしょうか?

いままでで最も安定して、しかも繰り返し使用でも信頼感のあるインターフェイスだね。ちなみに市場にあるインターフェースはすべて試しているんだよ。メーカーによっては、自社のインターフェイスがこんな巨大なショーで使われれば見栄えがする、というだけで薦めてくることもあるんだ。必要な事項はシンプルなものだよ: 統一性、信頼性、ユニットの機能、そしてこれらが繰り返しても保たれることだ。Symphony I/O Mk IIは使い始めてすぐに、今までのレイテンシーを半減し、64バッファサイズで動作させることができた。試した限り、他のインターフェースでは、このセットアップで近いパフォーマンスを出せたものはなかったよ。確かにパフォーマンスを保証しようとするメーカーもあるかもしれないが、きちんと話のできるところは多くないんだ。ちょっと外装を剥がして中を見てみれば、それが単に売るためのものなのか、統一性の保持をめざしているものか分かってしまうものだ。

Photo Credit: Cody Orrell

明らかなレイテンシーを感じることは?

ノー、一切ない。もしそうだとすれば、私はもうここにいないよ。彼女自身がきっちり歌うことが出来ないとすれば、それは非常に問題だ。

Symphonyを使うことに決めた要因とは何でしょうか?

これもグループとしての努力だね、正直に言うと。販売会社からは、あまり問題の解決につながらない機材が送られてきていた。これが煩わしくなってきてね、時間はいつも貴重だから。メーカーも自社製品を推してくるけど、どれもツアーにおける我々のニーズにそぐわないものだった。しかし問題解決は私の責務だ。あるときケーブルを探していて、Pro Audio LAを見ていたと思う。彼らが機材も扱っているのを知ってウェブサイトを覗いたんだ。ジェイソンというケーブルの注文を受け付けてくれた彼が親切に対応してくれたこともあって、何かアイデアはないかと尋ねてみた。そこで薦められたのがSymphony I/O Mk IIだったんだ。すぐにもシステムを持ち込んで試してみることになった。人との相互作用は本当に大切だね、これも統一感の尺度の一つだ。Pro Audio LAに到着してさっそくスタジオにセットしてみたところ、すぐにレイテンシーを半分にしてシステムを動作させることができた。3週間以上、考えうるすべてのDAWとハードウェア、プラグインの組み合わせを試してきて、ようやく解決策にたどり着いたんだ。ようやくね。まさに『形ができた(In Formation)』のさ(笑)。